2型糖尿病の重症化予防及び透析移行予防に関しては、患者本人のQOL(生活の質)への影響と医療費へのインパクトの大きさから、医療現場のみならず保険者や自治体など多くの関係機関による取り組みの強化が進められています。医療によるサポートが中心かつ重要な役割を持つ一方で、食や運動など生活習慣の改善が、最重要な方策の一つであるとの共通認識が広がってきました。また、ITなど各種テクノロジーを活用することで、医療現場で行われてきた患者への教育や体験による行動変容について、より効率的に介入できるようになるとの期待が高まっています。
これらを背景に筑波大学、株式会社ハビタスケア、株式会社JMDCは共同で、2型糖尿病重症化予防に向けたオンライン主体の新たな教育・体験型プログラム「KiDuKi」の開発に取り組んでいます。最新のICT(情報通信技術)やデバイスを活用し、さらには宅配食やオンライン教育をも組み合わせた総合的なプログラムです。
今回、主治医の許可と本人の同意の下、2型糖尿病患者計9人に本プログラムを提供しました。その結果、患者8人がプログラムを完遂し、7人で解析可能な血糖値データが得られました。いずれもプログラム期間中の平均血糖が介入前より改善し、HbA1cについても8人中6人で改善しました。プログラム終了から3カ月後時点の体重変化は平均で0.8kg減となり、8人中7人で減少が確認されました。
今後、「KiDuKi」の実証を既に始めている企業/健康保険組合をはじめとして、自治体、医療機関など多様な場でのプログラム提供とデータの取得、サービスとしてのブラッシュアップを進め、多くの方々の糖尿病重症化予防への寄与を目指していきます。
■研究代表者
筑波大学医学医療系 矢作 直也 准教授
株式会社ハビタスケア 徳渕 慎一郎 代表取締役
株式会社JMDC 松島 陽介 代表取締役兼CEO
■研究の背景
2型糖尿病の重症化予防及び透析移行予防に関しては、患者本人のQOLへの影響と医療費へのインパクトの大きさから、医療現場のみならず保険者や自治体など多くの関係機関による取り組みの強化が進んでいます(図1)。医療によるサポートが中心かつ重要な役割を持つ一方で、食や運動など生活習慣の改善が最重要な方策の一つであるとの共通認識が広がってきたところであり、さまざまな検討が進められています。また、患者への教育や体験による行動変容の多くはこれまで、教育入院など医療現場でのプログラムや仕組みの中で行われてきましたが、ITなど各種テクノロジーの発達により、新たなアプローチを付加することによる効率的な介入の可能性が広がってきました。
■研究内容と成果
筑波大学、株式会社ハビタスケア、株式会社JMDCの3者は、ウェアラブル、持続グルコースモニタリング(CGM)、ヘルスケアアプリなどの各種ICTデバイス、さらには宅配食やオンライン教育と専門職による指導を組み合わせた総合的な教育・体験型プログラムを開発することとし、それによって得られる価値に基づき「KiDuKi」と命名しました(図2)。
本研究では、筑波大学附属病院を中心とした医療機関において、主治医の許可の下、2型糖尿病患者を対象に本プログラムを提供し、各種診療及び生活習慣に関するデータを分析することとしました(図3)。
これまでに計9人の患者で同意が得られ、そのうち8人の患者が約2週間のプログラムを完遂し、これを解析対象としました(図4)。結果としてうち7人で解析可能なCGMデータが得られ、いずれもプログラム期間中の平均血糖が介入前より改善しました。HbA1cについてもプログラム修了から1カ月後、3カ月後ともに8人中6人で改善を認めました。解析対象者のHbA1c変化の平均は1カ月後で-0.325ポイント、3カ月後で-0.625ポイントと、3カ月後でより高い改善傾向が観察されました。プログラム終了から3カ月後の体重変化は8人中7人で減少が確認され、平均では-0.8kgでした。
「KiDuKi」は入院を伴わないオンライン主体の総合的な教育・体験型プログラムですが、終了後もHbA1c、体重は減少傾向を示し、患者の持続的な行動変容が得られたことが示唆されました。
■今後の展開
本研究から得られた知見を基に、臨床研究の症例をさらに積み重ねることと並行し、企業/健康保険組合向けに内容を最適化したものについて、初期展開を進めているところです。
今後は、本研究の進展と重症化予防の現場での実証をさらに進め、医学的・薬学的エビデンスに基づきながら、医療費低減とQOL改善への実効果が高く、活用いただく企業/健康保険組合、自治体、及び医療機関、さらには対象者となる糖尿病患者ご本人の方の満足度が高いサービスとなることを目指した検討を進めてまいります。
■参考図
図1.糖尿病重症化予防の必要性
図2.重症化予防プログラム「KiDuKi」のコンセプトシート
図3.本研究の概要
図4.本研究の試験デザイン
■研究資金
本研究は、株式会社JMDC/ハビタスケアのそれぞれの経費ならびに筑波大学の経費により行われました。
■学会発表
【題 名】オンライン主体の総合的な教育・体験型プログラムによる、2型糖尿病コントロール改善への寄与及び行動変容促進効果の検証
【発表者】山崎大地1)、古奥奈保子2)、武田尊徳3)、升田紫1)、鈴木浩明1)、岩崎仁1)、関谷元博1)、大崎芳典1)、菅野洋子1)、志鎌明人1)、村山友樹1)、栢森藍佳2)、菅井若葉2)、加藤正明3)、木村正3)、小間井俊輔3)、德渕慎一郎2)3)4)、矢作直也1) 、島野仁1)
(所属機関名)
1)筑波大学医学医療系 内分泌代謝・糖尿病内科 University of Tsukuba, Faculty of Medicine, Department of Internal Medicine (Endocrinology and Metabolism)
2)株式会社ハビタスケア Habitus Care Inc.
3)株式会社JMDC JMDC Inc.
4)東京大学大学院薬学系研究科 The University of Tokyo, Graduate School of Pharmaceutical Science
【学会名】 第65回日本糖尿病学会年次学術集会
一般演題 口演91 「糖尿病療養指導:患者教育技法 2」
【発表日】 2022年5月13日